恋の糸がほどける前に
私のところまで歩いてきた貴弘の横顔を、強い月の光が照らす。
向けられる視線は躊躇いなくまっすぐで、月の光に負けないくらい、強くて。
その強さはまるで私の心をすべて見透かしてしまうんじゃないかと思わせた。
「……っ」
そんな迷いない視線に思わず俯きそうになって、視界の隅に自分のつまさきが見えて。
慌てて顔を上げた。
きっと今まで、私は無意識のうちに貴弘の想いから逃げていた。
貴弘の気持ちを受け止めることを怖がっていた。
もしも拒否してしまったら、貴弘はもう二度と私の手の届く場所には戻ってきてくれないような気がして。
「……私」
もう水原のことは諦めなきゃいけない。
好きでいたって、つらい思いをするだけ。
どれだけ私が水原のことを好きでも、叶わない恋。
不毛な片想いを続けるよりも、私のことを好きになってくれた貴弘を選んだ方がきっといい。
────全部、ちゃんと分かってる。
でも。