恋の糸がほどける前に


「私は」

「また亮馬のこと考えてんの?」


痛みをこらえたような声で、貴弘が私の言葉を遮ってそう言った。


「ホント、お前残酷。ふたりのときはあいつのこと考えるのやめろよ!?」


……残酷、か。


声を荒げた貴弘の言葉に、ズキッと心が痛む。


思わず唇を噛んだ。


痛みに、つらさに、また俯きそうになったけれどなんとか堪えて、貴弘の言葉を受け止める。


だって、本当のことだから。


私はずっと、貴弘にとって残酷なことをしていたのだろうから。



「……貴弘」


今までも、貴弘はこんなに辛そうな顔をしていたんだね。

私と向き合うとき、こんなにも傷付いた顔をしていたんだね。


……俯いていたから、知らなかった。


貴弘だって、私と楽に向き合っていたわけじゃないんだ。


今まで気付かなくてごめんね。

知ろうともしないで、逃げてばかりで、ごめんね。


そんなにも心に傷を付けてまで、私と向き合ってくれていたのに。

想いを告げてくれていたのに。


私は、自分がどれだけ貴弘を傷つけていたのかさえ、知らなかった。



「……お前は俺だけ見てればいいよ」

「たか、ひろ」

「他のヤツなんか見んなよ。頼むから」


言われて、ぶわっと涙が溢れそうになる。


「っ」


貴弘の声が、心臓を強く揺らす。

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