恋の糸がほどける前に
♯ 2 恋と泣き顔*side 貴弘*
♯2 *side 貴弘*
「ごめんなさい」
葉純にそう言われた瞬間、心を襲ったのは。
自分でも意外だったけど、痛みより、安堵だった。
ぽたぽたと零れ落ちていく彼女の涙は自分だけを思って流してくれたもの。
たとえ一方通行の恋を終わらせる決定的な言葉でも、それは彼女が俺の気持ちに向き合ってくれた証拠。
不思議なくらい、今の俺にはそれだけで充分だと思えた。
葉純がまだ亮馬のことを忘れられないことも、たとえ葉純の恋が叶わないものになっても簡単に彼女の気持ちが俺に傾くことなんてないことも、わかっていた。
俺の気持ちが葉純にとって重荷になっていたことも、分かっていたつもりだ。
だけど、自分の想いに終止符を打つことがどうしてもできなかった。
葉純と両想いになるのは無理だと心の奥では諦められているのに、同時に心に巣食っていた執着心がどうしても消えてくれなかったから。
だから。
こんなふうにまっすぐに突き放してくれて、よかったんだ。
やっと、次に進める気がした。
葉純への気持ちを消す努力ができる気がした。