恋の糸がほどける前に
廊下の角を曲がるとき、ちょうど俺とは反対側から来ていた誰かとぶつかりそうになり、反射的に身体が後ろに傾いた。
聞こえた、控えめなソプラノの悲鳴。
「……何、お前もまだ起きてたの?雫」
このまま黙ってすれ違うのもおかしな話かと思い、ぶつかりそうになった相手にそう声をかける。
……別に、いいよな?
こいつだって、俺と別れて早々に亮馬と付き合いだしたみたいだし、俺に対して好きとかそういう気持ち、ないんだよな?
心の中で自問自答。
……うん、問題ないはず。
「……貴弘くんには関係ない」
ふいっと視線を逸らして、俺の横を通り過ぎようとする雫に、すれ違いざま思わずその手を掴んでいた。
「なんだよ、その態度。大体、もう就寝時間だろ。こっちはお前の部屋じゃないだろうが。どこ行くんだよ」