恋の糸がほどける前に
こんな野暮なことを言うつもりじゃなかった。
雫が行こうとしている方向には、1年生の部屋が並んでいる。
目的なんてきかなくても分かる。
……でも、未だにあんなふうにまっすぐアイツを思い続けてる葉純を見てきたばかりだからかもしれない。
亮馬のところに、行かせたくなかった。
「分かってるよ。すぐに戻る。……でも、どこに行くかまで貴弘くんに言う必要ないじゃない」
「雫」
呼ぶと、雫はキッと俺を睨んだ。
「その呼び方、そろそろやめてくれないかな?私たち、もうそういう関係じゃないでしょ?」
「そういうお前だって俺のこと名前で呼んでるじゃねーか」
「……手を離して。萩野くん」
はぁ、と小さく息を吐いた後に続いた雫の声は、今まで聞いたことがないくらい冷たかった。
俺のことを本気で突き放すような声。
俺のことを軽蔑してるような声……。