恋の糸がほどける前に

確かに、俺の方から一方的に別れを告げた。

だけど、それでも雫はただの一度も駄々をこねたりしなかった。

別れたくない、と涙を見せることもなかった。


別れてほしい、という俺の言葉に、一瞬驚いたような顔はしたけど、すぐにふわりと笑ったんだ。


『いいよ』


と、そう言って。


駄々をこねる雫なんて想像できなかったから、もともとそんなにもめるとは思っていなかったけど、それでも思った以上にすんなり納得されて、俺の方が内心驚いていたと思う。

あんなにあっさり別れを決めた俺たちだから、後腐れない関係に戻れるんだと思ってたのに。

……なんで今になって、こんな態度なんだよ。


「ねぇ、ちょっと。萩野くん」


「……お前って、そんな話し方だったか?」


そう言ったら、雫は再び俺を睨んでくる。


……そんな目だって、俺と付き合ってるときは見せてくれなかったよな。

いつだって穏やかで、優しい目しか見たことなかった。


雫でもそんなに感情の揺れる瞳をするんだって、全然知らなかった。

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