恋の糸がほどける前に


式が始まると、厳かな雰囲気が会場を包んだ。

涙交じりの卒業生の答辞に、後輩である私まで泣きそうになって。

ふと隣を見たら、水原も泣きそうな顔をしてて、心の中で笑ってしまった。


……こんなんじゃ、自分たちの卒業式のときは、私も水原もぼろ泣き決定だよ。






「雫先輩、ご卒業おめでとうございます。……1年間、本当にありがとうございました」


式の後、そう言って雫先輩に花束と色紙を手渡すと、雫先輩は涙を流したばかりの少し充血した目を細め、「ありがとう」と笑ってくれた。


そんなふうに私に笑顔を向けてくれたのは、本当に久しぶりで。

私まで泣きたくなってしまう。


「雫せんぱ~い!!」

わあああ、と部活のみんなに抱きつかれ、泣きつかれて、雫先輩は嬉しそうに笑っていた。


……本当に、後輩みんな、雫先輩のことが大好きだったんだなぁって、今更ながらにしみじみ思った。



「葉純ちゃん」


みんなの抱きつき対象が雫先輩から元部長に移ると、雫先輩が後輩の山をかきわけて私のところまで来てくれた。

< 275 / 283 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop