恋の糸がほどける前に
「なにぼーっとしてんだよ」
雫先輩たちを見送った後、余韻のせいかそこから動けないでいると、ふいにそんな声が聞こえて顔を上げた。
目の前には、たくさんの花束を抱えた貴弘がいて、いつもみたいに、笑っていた。
泣いたあとなんて、全然ない。
「貴弘!すごい花の数だね」
「まぁな」
自慢げに笑うと、ポン、と貴弘は私の頭に大きな手のひらを置いた。
「……なに?いきなり」
「べつに?」
「意味わかんない。重いからどけてよ」
「葉純」
私の言葉にかぶせるようなタイミングで後ろから呼ばれ、振り返る。
そこにいたのは、少し困った顔をした、水原。
サッカー部も先輩を送り出し終わったのかな、なんて考える間もなく、グイッと手をひかれた。
「わわっ」
ポスッ、と引かれるままに身体が水原の方に傾く。
頭から、貴弘の手のひらの重さが消えた。