恋の糸がほどける前に
「何だよ亮馬。ヤキモチか?」
ニヤニヤした顔で言う貴弘に、水原はキュッと眉を寄せた。
「いやいや、水原がヤキモチなんて妬くわけないじゃん」
何も言葉を返さない水原の代わりに、私があははと笑ってそう言い返しておいた。
水原がヤキモチ妬くなんて、想像できないもん。
すると貴弘は苦笑して、水原に視線を向ける。
「亮馬も苦労するな、これじゃ」
「もうすでに、ですよ。
それに、俺だって相手が貴弘さんじゃなかったら、もうちょっと余裕あるんすけどね」
そう言ったと同時に私の手を掴む水原の力が強くなって、驚いた。
と思ったら、私の手首を掴んでいた水原の手のひらがするりと下りてきて、私の手のひらと重なり、そんな水原の突然の行動に頭が付いていけずに戸惑う。
「なんだよ、亮馬も普通に独占欲強いのな。意外!」
軽く笑って、バシッと水原の肩を叩いた貴弘は、なんだか嬉しそうだった。
「……こいつ、救いようないくらいアホで鈍感で色気なんて皆無だけどさ、それでも俺にとってはすげー大事な妹分だから……、泣かせんなよ」
グイッと水原を肩ごと引き寄せてそう言った貴弘の言葉に、水原は「もちろんです」と答えてくれて。
アホとかいろいろ言われたのに、そんなことは全然気にならないくらい。
貴弘の言葉も、水原の言葉も、胸がギュッと締め付けられるくらい、嬉しかった。
「じゃあな!」
最後に一度笑顔を見せると、貴弘はくるりと背を向ける。
遠ざかっていく背中が、なんだかとても、大人に見えた。