恋の糸がほどける前に
「当たり前だろーが。……はー、マジで気分落ちたわ。雫も雫で恥ずかしがりすぎだろ。こんなお子サマに見られたところでなんの影響もないっつの」
「お子サマで悪かったね!……ていうかあんた、雫先輩の家に着くまでに、またらぶらぶちゅっちゅする気だったの?」
貴弘が家に入るので、自然に私も後に続いていた。
「当たり前だろー」
言葉通り、当然のように返ってきた言葉に、この節操なしの変態め、と心の中で罵った。
雫先輩、本当にこんなヤツでいいの……!?
納得できないっ!
……ガチャン、と後ろでドアが閉まる音がする。
私のことなんか気にした風もなく、玄関で靴を脱ぎ、部屋に上がって行く貴弘の後を追うようにリビングに入った。
……ふわりと鼻腔をかすめたのは、甘い、香り。
「なんかいい匂いする」
「……あー、雫の持ってきたクッキーだろ」
ドカッとソファに勢いよく座りながら、貴弘がどこか面倒くさそうに言った。