恋の糸がほどける前に
態度でかいな、まったく。
雫先輩お手製のクッキーを食べられるなんてすごいことなんだからね。
私は貴弘の態度に呆れながらも「へえ」と相槌を打ってキッチンに向かい、お母さんから預かってきたタッパーを冷蔵庫に入れてから、貴弘のいるリビングに戻った。
「じゃあ私、帰るから」
床に置いていた鞄を肩にかけて、貴弘にそう声をかけると、貴弘が「はあ?」とでも言いたげな顔を向けてきた。
……何、その顔。
「泊まってくんじゃねーの?」
「は、まさか。そういうことこそ雫先輩に頼むか、お兄ちゃんに言ってよ」
「……なんでここで雫と純希が出てくるわけ?」
本気でそう思っているのだろう、貴弘はキュッと形のいい眉を寄せて、不機嫌そうに私を見る。
「いやいや、いくらイトコでも、さすがにね。もう気軽にお泊りできる年齢じゃないでしょ。今日は由架さんたちもいないし、雫先輩に誤解されたりしたら嫌だしさ」