恋の糸がほどける前に
「それにお前だって、結局俺のこと名前で呼びたいんだろ?」
「……は?」
「呼び方、戻ってんじゃん」
「……あれ」
ハッとして思い返してみれば、確かにそうだ。
で、でもこれはちょっと油断したからであって。
「別に、名前を呼びたいとかそんなことこれっぽっちも思ってないからっ!!」
「ふーん?」
含み笑いなんかしてるこいつが本気で嫌。
「と、とにかくっ!好きな人は教えないし、泊まらないから!」
これ以上ここにいたら、ずっとこのやりとりを繰り返すだけになりそうで。
「あ、おい、葉純!」
そんなのずるずると貴弘のペースに呑み込まれてしまうのが分かりきっていたから、私は流れを打ち切るようにして、背中を追い掛けてきた貴弘が呼びとめる声も構わずに部屋を出た。