恋の糸がほどける前に
「……はぁ」
エレベーターで1階までおりて、外に出る。
今更ながらに、貴弘と雫先輩がキスしてるところを思い出してしまって、恥ずかしがるよりも、なんだか怒りが湧いてきた。
……あんなにかわいくて素敵な彼女がいるのに、どうしてもっと大事にしてあげないわけ?
いくらイトコだって言ったって。
私と貴弘との間に、特別な感情が本当に微塵もなくたって。
私が貴弘の部屋に泊まったり、仲良くしたりしたら、雫先輩は嫌だって思うに決まってる。
そんなの、ちょっと考えれば分かる事じゃん。
隣にいるべきなのも、隣にいたいと思うのも。
あいつにとっては私じゃないし、私にとってもあいつじゃない。
「……うん、やっぱり絶対内緒だ」
あんなデリカシーもない、彼女の気持ちも考えないようなやつに、好きな人なんて絶対教えないんだから……!
────もうすぐ夏が始まりそうな、夜空の下。
そんなことをかたく心に誓った私なのだった。