恋の糸がほどける前に
「あれ、水原と貴…、萩野先輩は?」
危ない危ない。
雫先輩の前で貴弘って呼ぶとこだったー!
気を付けなきゃ。
「ああ、食べ物買いに行った。なんか食べたいものあった?適当に買ってくるって言ってたけど、今なら電話すれば好きなもの買ってきてくれると思うよ」
座りなよ、とレジャーシートをぽんぽんと掌で叩きながらそう言ったお兄ちゃん。
それに従うようにして、芽美と雫先輩は腰を下ろした。
私は、屋台が並ぶほうになんとなく視線を向けて、思わず目を剥いてしまった。
「うっわ、すっごい人じゃんっ!」
氷、と書かれた旗がパタパタと潮風になびいているかき氷屋さんの列、半端ない。
海の家もお客さんでいっぱいなようで、座れずに立って食べている人もかなりいるのが見えた。
……え、ていうか。
6人分をふたりで持ってくるの!?
それはキツくないかな……!
「……お兄ちゃん、私もちょっと行ってくる!」
「え、でもこの人じゃ会えるかどうかわかんな……、葉純!」
お兄ちゃんの言葉なんてほとんど聞かずに、私は駆けだした。
ふわっと、ポニーテールにした髪が生温かい風に煽られて、後ろに揺れる。