恋の糸がほどける前に
「おー、おかえり!遅かったな」
「おまえ、俺より遅いってどういうことだよ」
お兄ちゃんや芽美のところに戻ると、お兄ちゃんの明るい声と、もうすでに残りの焼きそばを受け取って戻ってきていた貴弘の声が同時に響いた。
「ちょっとすいません、ドリンク買ってきます。悪い、ちょっとコレ頼む」
「わっ」
お兄ちゃんや貴弘の言葉には答えずに、水原は私の手から焼きそばを奪い取ると、いちばん近くにいた芽美にそれを押しつけた。
「行くぞ」
「え」
掴まれたままの手を引かれる。
「葉純ー、オレンジとウーロンでよろしくー」
「え!?あ、うん、分かったー!」
うしろからのんびりとした芽美のリクエストが聞こえて、私はぐいぐい引っ張られながらも首だけを後ろに向けて、叫び返した。
「え、あれ?水原、どこ行くの?」
屋台が並び、人が賑わう方向とは逆に進む水原に話しかけると、水原ははぁ、とため息をついて立ち止まった。
「……さっきの、ダメでしょ」
「え」