恋の糸がほどける前に
振り返らないままの水原の声はどこか怒っているように聞こえて、驚いた。
私、滅多に怒らない水原のこと、怒らせたの?
「ああいうときは大人しく助けを呼べよ。見るからにやばそうな感じだったじゃん」
「ご、ごめんなさい。でも」
「でもじゃない。……殴られてたら、どうするつもりだったんだよ」
はあ、もう一度ため息をこぼした水原は、ようやくくるりと振り向いて、私の顔を見た。
「……そこはちゃんと自分が女だって自覚しないと」
「……へ?」
「つか、お前中学のころから違和感なく男子にまざりすぎ。ちょっとは男子に危機感持てっつーの」
「は」
あれ、ちょっと嬉しいこと言われた?
と思ったのに、勘違いだったのかな。
男子に危機感持て、って。
クラスの男子にいったいどうして何の危機感を持てと言うの。
……そう言い返そうとしたら、不意に私の手を握る手にキュッと力が込められて、びっくりしてできなかった。
「なんか、不安になるんだよ。他の男と一緒にいるところ、見ると」
「……ふ、不安……?」
「自分でもよくわかんないんだけどさ。……とにかく、ちゃんと自分が女子だって自覚持つこと!男には力じゃ絶対かなわないんだから。……わかった?」