恋の糸がほどける前に

ようやく納得してくれたらしい水原は、そう言って歩き出す。


さっきまでは背中しか見えなかったけど、今はちゃんと隣を歩いてくれるから、なんだかさっきよりも水原との距離が近く感じる。


手が触れ合っているのはさっきと変わらないのに。



……あれ?


「そ、そういえばさ、水原」

「何?」


話しかけると、隣から視線が降ってきた。


「……あの。……手」


────つないだままでいいの?


なんて、直接言葉にするのはなんだか恥ずかしかったから、私と水原との間に揺れる触れ合ったままの手に視線を向けた。


本当はこのままでいたいけど、妙にくすぐったい気恥ずかしさには勝てずに言葉にしてしまう。


きっと水原にとっては、つないだ、というよりは掴んだまま、と言う方が正しくて、今触れたままでいるのも無意識のことなんだろうなぁって思った。

だから、きっと何も言わなければもっと長くその体温に触れていられたんだと思う。

我慢の苦手な私にはできない芸当だったけど。

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