恋の糸がほどける前に


「水原……っ」


私には、水原を助けることなんてできなくて。

そして、後から後から溢れてくる涙を止める術すらわからなかった。


「やめて!お願い、私ができることならなんでもするから……!」


引き剝がされた水原のところへ駆け寄ろうと、恐怖に震える脚を精一杯動かして進もうとした。

だけど、私を見る水原の目が「来るな」と言っているのが分かって、私はその視線の強さにまた動くことができなくなる。






……人が殴られる音を初めてきいた。


本気で人が呻く声をはじめてきいた。


それはこの穏やかで静かな夜には不釣り合いなほど痛々しく、重苦しくて。


だけど皮肉にも、この真っ暗な静寂は決してそれを邪魔したりはしなかった。




やめて、と何度叫んでもその願いが聞き届けられることはない。


ぽろぽろと流れてくる涙がひどく憎らしかった。


こんな雫、視界を曇らせることしかできないのに、どうして私には泣くことしかできないのだろう。


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