恋の糸がほどける前に
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「いてっ!!」
傷薬を浸した白い脱脂綿が傷口に触れて、水原は反射のようにそう声を上げると、顔を歪めた。
「三浦さーん、もうちょっと優しくできないの?」
ふざけたような口調で言う水原の口元は切れていて、痛々しい色をしている。
絶対、すごく痛いはずなのに。
水原にとってはこんな喧嘩をするのはきっと初めてで、こんなふうに圧倒的な暴力をうけたことだってきっと無い。
絶対、ショックを受けてるはずなのに。
それなのに、いつもと変わらない口調で私に接してくれる水原に、私は何も言えなかった。
あれから、水原のことを殴りたいだけ殴って男たちは去っていった。
私が駆け寄ると、水原は「折れたりはしてないみたいだから大丈夫」なんて笑ってきて。
痛々しい傷を付けた顔で、笑ってきて。
別荘に戻って傷の手当てを始めた今でも、そんな雰囲気は変わらないままだった。
水原は、私がひとり別荘を出たことに気付いて追いかけてきてくれたらしい。
気付いたのは水原だけで、皆はリビングで寝ているから、男子部屋のベッドに腰かけて水原の傷の手当てをしている今も、静かなままだ。