恋の糸がほどける前に
♯ 3 ナミダとキスとキミとの距離
♯3
「はい、じゃあ10分休憩ー」
熱気の立ち込める音楽室に、部長の声が響いた。
その言葉で、皆が足元に置いていたペットボトルや水筒を手に取る。
いくらか風が通って涼しい窓辺に避難しつつ、私もペットボトルに口を付けた。
夏休み中でも、私の所属する合唱部は毎日のように活動がある。
この高校の部活のなかでは、結構厳しい方に含まれるんじゃないかと思う。
昨日まで海に行っていた私も、皆に焼けた肌を驚いた目で見られながらもちゃんと来たし、雫先輩だってそうだ。
やっぱり、日焼け止めをに塗っていたって焼けるものは焼けるんだね……。
私は焼けたらすぐ焼けた色に肌が変わるけれど、雫先輩はどうやら黒くならずに赤くなって、ひりひりとした痛みを感じる肌質らしい。
黒くならないのは羨ましいけど、それはそれでつらそうだなぁって思った。
3年生の先輩たちとピアノの近くで談笑している雫先輩は、昨日までの疲れが残っているのか、なんだかいつもより元気が無いように見える。
白い制服の袖から伸びる細い腕は、太陽の光を存分に浴びて赤くなっていたけれど、それより赤いのは、目の縁のような気がする。
……そんなところも焼けちゃうの?