恋の糸がほどける前に
ペットボトルの中身をグイッと飲み干す。
……そのときは雫先輩の目の赤みを、日焼けとしか思わなかった。
昨日楽しかったなぁ、なんてそんな能天気な頭しかなかった。
「雫先輩っ!海、楽しかったですね」
部活が終わった後、偶然音楽室を出るのが一緒になった雫先輩に、そう話しかけた私。
そんな私に振り向いた雫先輩の顔を正面から見るまでは、気付かなかった。
……それが、泣いたあとだって。
涙のあとだって。
何かあったんだって、さすがの私でも気が付いた。
「……そうだね。私もすごく楽しかった。誘ってくれてありがとう」
雫先輩の弱々しい笑顔は、笑っているはずなのに泣きそうに見えた。
綺麗な声を紡ぐ唇の端が震えているように見えるのは、見間違いじゃないよね……?
「雫先輩……?」
「葉純ちゃんは、水原くんのことが好きなんだよね?すっごくいい雰囲気だったから、きっと上手くいくよ。頑張ってね」
「えと……」