恋の糸がほどける前に
たしかに一緒に海に行ったし、ふたりとも大事な人。
知らない関係なんかじゃない。
けれど、ふたりの恋愛事に首を突っ込んだ覚えはないよ。
だって私は私で、自分のことに精一杯だった。
────水原の傷を思うと、チクリと胸が痛む。
それと同時に、抱きしめられたときのぬくもりが今でも鮮明に蘇ってきて、こんなときに不謹慎だけど、ドキドキした。
「……やめろよ」
唐突に、イラついたような貴弘の声が響く。
「え、何言って……っ、きゃ」
腕をつかまれ、身体が押されるままに後ろに傾く。
ガタン、とすぐ後ろにあった机が音をたてた。
後ろに転ぶのを防ごうと反射的に後ろにあった机に掌をついて、中身の入っていない机がその衝撃に動いたせいだ。
「な、に……」