始まりは恋の後始末 ~君が好きだから嘘をつく side story~
外回りから会社に戻りエレベーターから降りた後、営業部のフロアに戻らずゆっくり歩いて休憩スペースに向かう。そこには数人の社員がそれぞれひと時を過ごしていた。自動販売機でホットのダージリンティーを買って奥のテーブルの上に置きイスに座る。

「疲れた・・」

小さくため息をついてつぶやく。
何でだろう・・心が曇る、心が乱れる。いつもと違う・・いつもと?ううん、最近ずっとこんな感じだ。
仕事は変わらずできている。食事だって睡眠だってちゃんと取れている。
でも・・澤田くんが私の視界に入ったり、彼の話題を女の子達が話しているのを耳にすると気持ちが揺さぶられてしまう。
今までこんなことなかったのに。いい男とは思っていたけど、他と変わらないただの後輩だったのに。
こんな風に感じるのは、彼と寝てしまったから?
でもそれ位で心が揺れるほど私はピュアじゃない。今までだって流れや勢いでセックスをしたことはある。その相手に好きという感情がなくても。そんな関係を持っても綺麗に割り切ることはできていた。

それなのに何で?何がこんなに心に引っかかるのだろう・・・
その理由の多くを占めているのは楓のことだと思う。彼が自分の気持ちを抑えて楓の恋を見守り続けていたことが私の中では強く残っている。
何で彼は自分の気持ちを抑えたのだろう・・そのことがずっと気になって彼のことを今まで見続けてきた。
もちろん楓のことを一番に応援して山中くんと幸せになることを私も望んできた。でもいつも澤田くんの伝えない想いも気になっていた。だから山中くんが楓に気持ちを伝えに行ったあの日・・・いつまでも彼のそばに私はいたのだと思う。
でも彼のぬくもりを知ってから、私は戸惑い続けている。

テーブルに置いたままだったストレートティーを手に取りキャップを開けて飲もうとした時、「澤田さ~ん」と甲高く嬉しそうな声が聞こえた。

「お疲れ様です!」

その声が聞こえた方向に視線をやると、女子社員の後姿とその向こうに隼人の姿を見つけた。
またか・・・。彼に駆け寄って全身から嬉しそうなオーラが出ている。
そしてチラッと見えたその子は、今さっきまでこの休憩スペースにいたのだ。そして彼の姿を見つけて駆け寄って行くってことは、彼を待ち伏せしていたのかもしれない。
そんな場面をまた目にして、小さなため息が出る。
そして2人から視線をそらして手に持っているストレートティーを2口飲んでキャップを閉める。
何となく時間をつぶしてから彼らのいた方を見ると、もうそこには誰もいなかった。そして周りを見れば、この休憩スペースにも人の姿はいなくなっていた。

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