始まりは恋の後始末 ~君が好きだから嘘をつく side story~
「行くか・・」

何だかむなしい気持ちになって立ち上がり、バッグとペットボトルを手にして休憩スペースを後にした。
営業部のフロアに行くと数人の社員が残業で残っていた。その中に隼人の姿もあり、一瞬だけ視線を向けて自分のデスクに向かった。
イスに座りまずメールの確認をしてから残っている仕事を片付けた。
数枚の書類を仕上げて、明日の訪問先の確認をする。
とりあえず終わらせるべきことも済ませ、デスクにひじをついて顎を乗せため息をつく。
周りを見ると残っている社員は数名。隼人もまだデスクワークをしているのを視界の端で見る。
まるで盗み見るように彼を見ながら、朝のことを思い出す。

『飲みに行きませんか?』とあんなキラキラした瞳で誘われても行かないんだね・・何で?
そう思いながらも複雑な気持ちになる。そんな事を考えていると、フロアの入り口のドアが開いて部長が顔を見せた。

「澤田、悪いけど手が空いたら企画部の会議室まで来てくれ」

その言葉に「はい、今行きます」と隼人が答えると、部長はフロアから出て行った。
そして彼がデスクの上を片付けているのを見て、『私も帰るか・・』と意味の無いため息をついて書類をまとめ、パソコンをシャットダウンした。
すると隼人が自分のデスクから声をかけてきた。

「帰るんですか?」

その言葉に反応して振り向くと、彼の視線と絡んだ。最近ずっと避けていた彼の瞳を見て、焦りと胸の痛みを感じる。

「うん・・とりあえず終わったから」

つぶやくような小さな声になってしまう。
そんな私とは対称的に澤田くんはいつもとは何ら変わりない顔つきをしている。

「大丈夫ですか?疲れた顔をしていますね」

顔を少し傾げながらふと問われて、その言葉が私の耳に残る。『疲れた顔』って・・。何だかからかわれたような気持ちになってムカッとなる。『疲れた顔』なんて異性に言われて、嬉しい女はいるわけない。

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