始まりは恋の後始末 ~君が好きだから嘘をつく side story~
「だめ」

幼い子供に言い聞かせるように言い、更に私の体を包み込むように抱きしめてきた。
もうどうにも動けない。とりあえず諦めて思っていることだけ伝えることにした。

「あのさ・・澤田くん。どうして急に敬語じゃなくなったの?それに咲季さんって・・」

「うん?急じゃないよ。セックスしている時も咲季さんって呼んでいたけど覚えていない?」

やたら甘い声を出して顔を寄せてくる。

「ちょっと!セッ・・・ってもうやめてよ・・」

私がうつむいて困っていると、私の耳元に唇をつけて言った。

「咲季さん、僕としたこと後悔している?忘れたい?」

耳たぶに触れる唇とささやくような澤田くんの声に身体がゾクってした。やだ・・私感じている。
そう、澤田くんとのセックスはよかった。自分でも驚く程・・感じた、今までにないくらい。
だから澤田くんがセックスの最中に、『咲季さん』と呼んでいたことも正直覚えていない。
でもそんなこと・・言えない。

「後悔ってわけじゃないけど、でも・・・」

後悔ってわけじゃないけど、昨日まで後輩で恋愛感情ってものを持っていなかったのに、こんな事になるなんて。それに澤田くんは楓の事を5年間も想っていて、隠していたその気持ちを慰める為に昨日は飲みに行ったはずなのに。ああ、もう!頭が整理できない。

「なかったことにしたい?」

微笑みながら聞いてくる澤田くんから目が離せなくなる。

「・・・うん・・ごめんなさい、でも・・」

「ダメ、なかったことにできない」

私が言い切る前に優しい声で遮った。驚いて思わず吸った息が止まった。

「咲季さんって、何か思っていた感じと違うね」

私を見ながら苦笑する。
思っていた感じと私が違う?はあ?それはこっちのセリフよ!今まで見てきた澤田くんは何だったのよ。確かに少し人をからかう所はあったけど、クールだったあの澤田くんはどこ行ったのよ。騙されていたわけ?

「それは澤田くんのほうでしょ!!会社での澤田くんと全然違う!それが本性なわけ?」

「う~んどうかな?」

からかうように意地悪な顔をして、少し顎を上げている。こっちの困っている様子を楽しんでいるんだ。

「信じられない・・・」

「咲季さんってホントは可愛いんだね。会社ではお姉さんだけど、今の咲季さんいいかも」

にっこり笑ったその笑顔は引き寄せられる魅力があったけど、今の私には悪魔にしか見えない。

「・・・何言ってんのよ」

「ほら、フワフワの咲季さんの髪の毛も気持ちいい」

そう言うと、顔を私の頭に寄せてフルフルと横に振って私の髪の毛に絡みついた。唇がこめかみと瞼に触れてくすぐったい。

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