始まりは恋の後始末 ~君が好きだから嘘をつく side story~
「お疲れ様です」

冷静で変わらない彼が何だか憎たらしくなる。何で自分だけこんなにドキドキしないといけないのか?と一瞬思うとつい視線がきつくなってしまい、声もいつもよりワントーン低くなる。

「・・お疲れ様」

可愛くない返事をしてしまい、すぐに視線をそらしてその場から逃げるように営業部の方へ歩き出すと、「今井さん」と呼び止められた。

「えっ?」

隼人に呼ばれると咲季の胸は『ドキッ』と強い鼓動を打ち、肩を一瞬震わせた。
そして彼のほうに振り向くと優しい笑みで自分を見ていたので、今度は『キュッ』っと胸に甘い痛みが広がった。そしてそのまま私のすぐそばまで来たので、思わず一歩引いてしまった。
でも彼はそんな事など気にする様子もなく微笑みながら、

「もうすぐ帰れますか?」

ささやくように聞いてきた。私の視線は目の前の瞳に吸い寄せられる。

「報告書書いて出したら終わるけど」

私の返事に変わらぬ笑顔で頷くと、また甘い声でささやいた。

「じゃあご飯食べに行きましょう」

「・・・」

今言われたことがうまく頭で理解できず、一瞬黙ってしまう。
そんな私に「じゃあ休憩スペースで待ってますね」と勝手に話を進める彼にやっと言葉が出る。

「勝手に決めないでよ!すぐになんて終わらないから」

突然の誘いに驚きながらもときめく気持ちはあるのに、可愛いげのない返事をしてしまう。だけど隼人は気にする様子も見せずに言葉を返してきた。

「終わるまで待ってますから大丈夫ですよ。ゆっくりやって下さい」

そう言葉を残してそのまま休憩スペースへと向かったので、その後ろ姿に言葉を投げる。

「行くなんて言ってないし!いつ終わるか分からないんだから」

私がそう言っても彼は振り向くことなく行ってしまった。怒っているわけではないこの胸の『ドキドキ』に、体温も上がり戸惑いを感じる。
『終わるまで待っているから大丈夫』って何が大丈夫なのよ・・・。戸惑いと焦りでいっぱいになり、一人になっても素直になれず小さくつぶやく。

「どれだけ待っても知らないから・・」
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