始まりは恋の後始末 ~君が好きだから嘘をつく side story~
「何が約束よ。約束なんてしていないでしょ」

声の聞こえた方に隼人が視線を向けると、すねたように睨む咲季の姿が近くにあった。
隼人はさっきまで女子社員へ見せていた表情ではなく、もっと柔らかく親しみのある笑みを咲季には見せた。

「でもここに来てくれたのは約束したからって事になりませんか?」

「待ってるって言い逃げするからじゃない」

「すいません」

謝罪の言葉を出しても、反省している様子は全くない。それどころか楽しんでいるような顔を見せる。

「でもデートしましょうって言っても、何でって言われるかな?って思ったので」

「・・・」

「それならちゃんと誘います」

そう言うと今までの楽しんでいた表情をサッと変えて、色気を含んだ瞳を見せた。

「今井さんのことを待っていました。この後2人で食事に行きませんか?」

「・・今更おかしいでしょう」

本当は彼の瞳・言葉にまた『ドキッ』としたけど、つい照れ隠しに否定してしまう。
でも隼人は何でもないかのように微笑みながら立ち上がり言葉を返した。

「待ってるって言ったから、報告書を急がせてしまいましたか?」

「そんなことないけど」

確かに急ぐつもりなんてなく本当はおもいっきり待たせてやるつもりだったのに、報告書もそこそこに体は自然と帰り支度をして隼人の元へと向かってしまったのだ。
そうして咲季の言葉を聞いた隼人は、上手く誘導するように咲季のすぐ側に立ち、咲季の瞳を見てから先に歩き始めた。それに促されるように、つい咲季も合わせて歩き出してしまう。

そうして隼人に並んで、約束通りの食事に行くことになったのだった。
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