始まりは恋の後始末 ~君が好きだから嘘をつく side story~
「もう!バカ!あんな言い方したら、どう思われるか分かっているでしょ?」

「どう思われるって?」

私が眉間にしわを寄せて怒っているのに、彼は首を傾げながら質問返しまでしてくる。

「自分がもてること分かってるでしょ?エレベーターの中にいた子だって驚いて振り返っていたじゃない。いつも誘われても断る態度をとっているなら考えてよ。勘違いされて恨まれるのなんて、私嫌だからね」

澤田くんに言葉をぶつけながら、胸は苦しくなる。
本当はこんな言い方したいわけじゃないのに。でも自分の感情のコントロールが難しい。
彼に誘われて嬉しいって気持ちは確かにあるけど、戸惑う気持ちも同じ位あって。そんなところに人前で『何食べたいですか?』なんて優しく聞かれて、女子社員の嫉妬まで感じてしまったら・・私は素直になれない。何でもない事のようにも流せなくて、澤田くんにあたってしまった。
何だか気まずさと恥ずかしさで視線を落とし唇を噛むと、上から優しい声が落ちてきた。

「すいません。今井さんとどこに行くか考えていて周りが見えていませんでした」

「周り・・って」

意外な言葉に視線を上げると、さっきよりも距離が近くなっていて一瞬驚いてしまう。
そんな私を見て澤田くんは少し微笑み、私の隣に並んだ。

「それで?何食べたいですか?」

そう言いながら私の背中を手の平で軽く押して、私に歩くように促してきた。
自然とまた並んで歩き、彼の質問につぶやく声で答える。

「・・和食」

「はい。じゃあお店は僕におまかせでもいいですか?」

「うん」

私が答えると澤田くんはタクシーに連絡した後、これから行くお店に席の予約もしてくれた。
タクシーに乗って澤田くんが運転手さんに伝えた場所は10分ちょっと位かかる。
到着してタクシーを降りると澤田くんは一軒のお店に向かい、「ここです」と言って私を店内に誘導した。
中に入るとスタッフの人が出迎えてくれて、澤田くんが予約名を告げると個室へと案内された。
落ち着いた感じで雰囲気のいいお店。向かい合って座ると、メニューを差し出された。
初めて来たお店なのでどんな料理があるのかとりあえず見てみる。
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