始まりは恋の後始末 ~君が好きだから嘘をつく side story~
「ごめんね」

声をかけて席につくと、澤田くんは「いいえ」と微笑を見せた。そして、「今タクシーを呼んでもらったけど、もう出られますか?」と言ってくれる。
タクシーお願いしてくれたんだ・・。

「うん、ありがとう。大丈夫だよ」

答えて席を立つと、澤田くんは私を迎えてくれるように立ち2人並んで歩く。そのまま出口に向かったので会計が気になり、澤田くんの顔を見る。

「あの」

「もう済ませてあるから行きましょう」

私の言いたいことを察知しているらしく、そっと声をかけられて背中に添えられた手に軽く誘導された。
わずかに感じる彼の感触が嬉しい。でも恥ずかしさが勝ってしまい、お店を出てすぐ彼から少し離れ「お会計いくらだったか言って」と無粋に言ってしまう。
一瞬黙った澤田くんに自分の可愛げ無さを恥じて少し顔をしかめると、彼は嫌な顔もせずまた私の横に立ち、今度は背中を包むように腰に手を添えた。

「今日はデートのつもりで誘ったので、おごらせて下さい」

「でも・・」

「ほら、タクシー来てるみたいですよ」

停車しているタクシーに視線をやって歩き出す。私も腰に添えられた彼の手に連れられ、一緒にタクシーに向かった。
2人並んでタクシーに乗って私のアパートの住所を伝えると、少しの間沈黙になる。
肩がくっつく位近くにいる彼を意識しているから?
いつもは酔わない量のお酒に軽く酔ってしまったから?
自分から話題を出せない理由をいくら考えても、結局は澤田くんといるから・・につながってしまう。
うつむき加減に左隣に座る彼へ視線をやると、ゆったりと長い足を組んでいるのが見えるだけ。
彼は何を思っているのかな・・。
私が今言える・言うべき言葉を伝える。
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