始まりは恋の後始末 ~君が好きだから嘘をつく side story~
「寒くないですか?」

「うん、大丈夫」

私が答えるとまだ短くなっていないタバコを灰皿で消して、私の腰に手をまわすと軽く引き寄せた。
寄り添いながら2人で朝の空気を感じるのもいいもんだなって思う。こんな風に時間を気にしないで寄り添っているなんて社会人になってから無かったことだから。
好きな人に奥さんがいれば、帰る姿を見送らなければいけなくて。いつも私は気持ちとは裏腹に笑顔で手を振っていた。そんな未来のない付き合いをしていた頃と比べて、今どれだけ幸せかを心から感じる。
そして嬉しさと切なさが混ざり合って何とも言えない気分になり彼の腕に顔を寄せると、腰に添えられていた手が更に私を引き寄せた。
彼の胸元に顔を寄せると、その居心地の良さに瞳を閉じる。

「咲季さん」

「ん?」

瞳を閉じたまま答えると、もう一度名前を呼ばれた。

「咲季さん」

「何?」

答えながら顔を上げると、優しいキスが落ちてきた。
唇と唇が軽く触れるようなとてもソフトなキス。そして彼が今吸っていたタバコの香りがした。
そんなキスが何だか嬉しくてつい『ふふっ』って笑ってしまったら、彼は唇を離して近距離から視線を合わせてきた。

「どうしました?」

不思議そうな彼も愛しくなる。

「タバコの香りがしただけ」

「・・あっ、嫌でした?」

「ううん、嫌じゃない。その逆で、何か・・いいかも」

そう、彼のタバコの香りを感じたキスはもっと欲しくなるようなキスだった。
まるで彼を強く感じるような、魅惑的なキス。
そんな私の気持ちを察知したように、彼はまた私を誘惑する。

「じゃあ・・もう一度」

そう言ってさっきよりももっと深いキスをくれた。
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