始まりは恋の後始末 ~君が好きだから嘘をつく side story~
「で?王子はなんて言ってるの?」

「・・王子」

「イケメンでモテるんでしょ?じゃあ王子じゃない」

澤田くんを見たことない沙耶の浮かんだイメージはそれだったのかもしれない。
イケメン・モテる・年下・・・本人に会っていなくてもやっぱり王子って称号がピッタリなのかもしれない。

「王子ね・・」

「王子なんでしょ?」

「そうだなぁ。とにかく社内じゃ澤田ファンが多くて。前にも話した通りアピール女子がいっぱい」

「だったらあんたは彼女アピールしとけばいいのに。私の彼よ!って予防線張ってやればいいじゃない。今度は胸張って付き合うんでしょ?」

沙耶の言いたいことは分かる。孝宏と付き合っていた時はいつも何かが不安だった。
満たされない不満と不安をいつも沙耶に愚痴っていたから、今回後ろめたい交際ではないのに私がオープンに付き合わないことに異議を唱えてくれているのだ。

「私の彼よ!って?言えないなぁ・・。」

「何でよ」

「嫌よ!恐ろしい。皆に睨まれる、殺される。それにさ・・」

「ん?」

「何ていうか・・自信がないんだろうね。あんなキラキラした男の彼女ですって胸張って前に出る自信がさ、私にはないのよ」

すっかり日陰癖のついている自分にもため息が出てしまうけど、今回彼氏と言うことを躊躇してしまう程のモテ男と付き合ってしまったことが自分の中で処理しきれていない。
そしてもし別れても会社の人達は知らないという弱気の保険を密かにかけて、ダメージから自分を守りたいと思ってしまった自分にもため息が出る。
そんな私の言い訳を聞いて沙耶は一瞬寂しそうな表情を見せたけど、すぐに強気な言葉を返してきた。
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