始まりは恋の後始末 ~君が好きだから嘘をつく side story~
「おはよう」

挨拶を返すと、私の前を歩いて行った。それに反応して私も山中くんについて行く。
山中くんの後ろを歩きながら、入り口にいる澤田くん達に近づく。何だか分からないモヤモヤが大きくなって眉をひそめてしまう。

「ちょっとごめん」

その言葉に私まで反応してしまう。目の前に2人がいるのだ。
山中くんの声に、「あっ、すいません」と女の子の恐縮した声が聞こえる。そして澤田くんの近くに身を避けた女の子の姿が見え、山中くんに続いて私も「おはよう」と普通に挨拶をして2人の横を通り抜ける。澤田くんの顔は見ないように。
何となく視線を感じて早足に自分のデスクまで歩いた。

始業前のわずかな時間。肘をついて顎をのせながらメールチェックをしていても何となく目線は泳いでしまう。落ち着かない?気になる?・・何が?
指はパソコンへの動作とは関係なく余計な動きをする。

「おはようございます」

その声に心臓はドキッとして、肩はビクッとなる。
反射的に振り返ると、私の斜め後ろに彼は立っていた。高い位置から私に視線を合わせてくる。何でもないように、いつもと変わらず。

「おはよう」

そう応えた声はいつもより低くなってしまった。

   -挨拶ならさっき2人の前で言ったでしょ。すれ違いざまに、目は合わせなかったけど・・-

私の返事に澤田くんは少しだけ首を傾け笑顔を見せる。そう、これもいつもと変わらないように。
そして自分の席に向かっていった。
そんな彼に視線が追ってしまいそうになり、慌ててパソコンに意識を戻す。
そして朝礼が始まり気持ちを無理やり切り替えた。

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