ラストバージン
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三月に入ると陽射しが少しずつ穏やかになり始め、起床も通勤も僅かにラクになった。
まだまだ寒いけれど、目が覚めてからベッドを出るまでの時間は短くなって、出勤前に余裕が出来るようになった。
ただ、年度末を控えた今はうんざりするくらい残業が増え、最近は勉強会に参加する事も多くて休暇でもレポートに明け暮れてばかり。
勉強は自宅じゃないと捗らない私の足は、楓から遠退きつつあった。
年末年始よりも年度末や新年度の方が忙しいのは毎度の事で、それは前の病院にいた時も同じだった。
だから、忙殺の日々を送る事自体は覚悟していたけれど、楓に行けないのは少しだけ寂しかった。
恭子が退職してから二ヶ月余りが過ぎた今、職場で一番の理解者だった彼女と院内で会えない事も寂しく、時々重なっていた休憩時間で愚痴を聞いて貰えなくなった事だって結構つらい。
菜摘は澤部さんと上手くいっているみたいで、以前までのように私の休暇の前夜に飲みに行ったり、突然ランチに誘われるような事もなくなった。
たまに掛かって来る電話で、お互いの近況報告はしているけれど……。私の方は特に話す事がないから、いつも菜摘の話を聞くだけで終わっていた。