ラストバージン
「私、佐原さんとはもうお会い出来ません……」
いつもよりも小さくなってしまった声は、店内の喧騒の中ではすぐに掻き消された。
「理由を聞かせて頂けますか?」
だけど、佐原さんの耳にはきちんと届いたらしく、彼は落ち着いた声音でそんな質問を紡いだ。
「佐原さんは、とても素敵な方だと思います。誠実で、優しくて、気を遣って下さって……。恋人がいらっしゃらないのが不思議なくらいだ、って思います。でも……」
僅かに目を伏せ、息をゆっくりと吐き出す。
「私はいつだって、佐原さんとお会いしなくて済むような言い訳を考えてばかりで、あなたとちっとも向き合おうとしていなくて……」
怒られても、仕方ない。
怒鳴られても、仕方ない。
それらを自覚しているからこそ、声が震えそうになってしまう。
「このままだと、佐原さんにとても申し訳なくて……」
嘘をつく事も考えた。
〝それなりの理由〟を並べて謝ればいいんじゃないか、とも思ったけれど……。恋愛や結婚を考えられない相手とは言え、いつも誠実に接してくれていた佐原さんの事を考えているうちに、せめてこの時くらいは私もそうでありたいと思ったのだ。
いつもよりも小さくなってしまった声は、店内の喧騒の中ではすぐに掻き消された。
「理由を聞かせて頂けますか?」
だけど、佐原さんの耳にはきちんと届いたらしく、彼は落ち着いた声音でそんな質問を紡いだ。
「佐原さんは、とても素敵な方だと思います。誠実で、優しくて、気を遣って下さって……。恋人がいらっしゃらないのが不思議なくらいだ、って思います。でも……」
僅かに目を伏せ、息をゆっくりと吐き出す。
「私はいつだって、佐原さんとお会いしなくて済むような言い訳を考えてばかりで、あなたとちっとも向き合おうとしていなくて……」
怒られても、仕方ない。
怒鳴られても、仕方ない。
それらを自覚しているからこそ、声が震えそうになってしまう。
「このままだと、佐原さんにとても申し訳なくて……」
嘘をつく事も考えた。
〝それなりの理由〟を並べて謝ればいいんじゃないか、とも思ったけれど……。恋愛や結婚を考えられない相手とは言え、いつも誠実に接してくれていた佐原さんの事を考えているうちに、せめてこの時くらいは私もそうでありたいと思ったのだ。