ラストバージン
「すみません……。もっと早くに、きちんとお話するべきでした」

「一つ、質問してもよろしいですか?」


申し訳なさでいっぱいになっている私に、佐原さんが複雑そうな笑みを浮かべた。


「はい」


身構えつつも、出来る限り誠実でいようという気持ちが淀む事はなく、彼の瞳を真っ直ぐ見つめていた。


「二度目と三度目にお会いした時は、僕からの誘いを断り切れずに仕方なく受けて下さったんでしょうか?」

「いいえ……」


小さな声だけれど、すぐに否定の言葉を紡げたのは、あの時の自分の中には少しでも前向きに考えてみようと思う気持ちがあったから……。


妊娠した恭子や、突然結婚に前向きになった菜摘の影響が強い事は言うまでもないけれど……。キッカケは何にせよ、誠実な佐原さんとなら信頼のある関係が築けるんじゃないか、と思えたのも事実だった。


「正直に言うと、母と母の知人の方からの紹介ですし、断りづらかったというのはあります。でも……私なりに色々と考えて、佐原さんの事をもう少し知りたいと言うか、もう少し知ってから決めようと思って、お誘いをお受けしました」


予想以上に落ち着いた声音だった事に驚きつつ、自然と自嘲を含んだ笑みが漏れた。

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