ラストバージン
「結果的にこうなってしまった以上、佐原さんに申し訳ない事をしてしまった事には変わりないんですけど……」

「いいえ」


俯き掛けた私を、佐原さんの力強い声音が留めた。
怒気を含んでいないその一言を怪訝に思い、再び彼を見つめて言葉が紡がれるのを待つ。


「結木さんが少しでも僕との事を考えて下さった上での事だったのなら、それだけで報われると言うか……。向き合おうとして下さった事が嬉しいです」

「佐原さん……」

「一応足掻かせて頂きますが、僕が結木さんとお付き合い出来る事はないんですよね?」


明るく笑った佐原さんは、きっと気まずくならないように気を遣ってくれているのだろう。


「すみません……」


それを察しながらも上手い切り返し方がわからなくて、私は小さく謝る事しか出来なかった。


「いえ……。僕の方こそ、すみません。みっともないですね」


苦笑した佐原さんに慌てて首を横に振ると、彼が穏やかに破顔した。


「結木さん」

「はい」

「今までありがとうございました」

「私の方こそ……」


私が謝罪とお礼を紡いだ後、私達はぎこちない雰囲気を纏ったまま席を立ち、カフェの前で別れた――。

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