ラストバージン
「でも、私は〝後輩達に質問をされた時に答えられないような先輩〟にはなりたくないですし、何よりもスキルアップのチャンスが訪れた時に勉強不足でそれを逃してしまうのは嫌なんです」


昔から、勉強で褒められる事が一番多かった。
だから、勉強をしないと不安になってしまうというのもあって、いつだって積極的に勉強会に参加するようにしている。


自宅の本棚には専門分野の参考書ばかりが並んでいて、レポートや資料を纏めたファイルの冊数も膨大だ。


「とても結木さんらしいですね」


柔らかく微笑むマスターが、その台詞を褒め言葉として紡いでくれた事はすぐにわかったけれど……。考えてみれば、プライドが高くて可愛いげのない女だと思われてしまったかもしれないと、途端に自己嫌悪に陥った。


榛名さんは、こんな私の考え方をどう思ったのだろうか。


「すごいな……」


そんな不安から左隣を見る事が出来ずにいると、彼が独り言のようにポツリと呟いた。


「僕なんて勉強嫌いだから、研修の度にサボる事ばかり考えそうになっているのに……。結木さんの姿勢は、本当に素晴らしいと思います」


感嘆混じりの声で話した榛名さんを見ると、彼はニコニコと笑っていた。

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