ラストバージン
二時間程飲んだ後、駅前で反対路線の酒井さんと別れた。
自宅の最寄駅に着いた時にはとっくに楓は閉店してしまっている時刻で、榛名さんに会った日から一度も行けていない事が寂しかった。


不規則な勤務だから多忙な時期は一ヶ月くらい行けないのは以前からだったけれど、明らかにこれまでよりもひどく寂寥していた。
近所に住んでいる榛名さんとも会える事はなく、彼のあの穏やかな話し方が聞けないのもその一因になっているのかもしれない。


思わず小さなため息を漏らし、明々としたコンビニの前を通り過ぎる。


「……結木さん?」


その時、耳に届いた声音はどこか懐かしくも感じるもので、目を小さく見開きながら振り返った私はすぐに笑顔を零していた。


「榛名さん!」

「あぁ、やっぱり! こんばんは」


ニコニコと微笑む榛名さんにホッとしたのは、きっと疲れていたからだろう。


「こんばんは」

「こんな時間までお仕事だったんですか?」

「いえ、今日は後輩と少し飲んでいて」

「奇遇ですね、僕もさっきまで同僚と飲んでいました。やっぱり、僕達は気が合うのかな」


フワリと笑った榛名さんに、胸の奥がトクンと鳴った。

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