ラストバージン
こんな風に言われて、平静を保つ事なんて出来るはずがない。
職業柄、この歳でも患者さんに声を掛けられる事は少なくはないし、中には手慣れた口説き文句を並べる男性もいるけれど……。
「だから、今日はお会い出来て良かったです」
それらには大して反応しない心が、榛名さんの声で紡がれる言葉にはやけにざわめく。
これを〝ときめき〟と呼ぶのは、正しいのだろうか。
もう何年も恋をしていない私には、そんな事すらわからない。
だって、ときめき方なんて忘れてしまっているから…。
その答えがわからないまま、気が付けばマンションが目の前に見えていた。
利便性を考えて選んだはずなのに、駅から近い事が今は残念に思える。
(もうちょっとだけ話したい……)
胸の奥で燻る願望はもちろん声に出せないし、そもそもそんな事を言う勇気もない。
悶々としながら俯きがちになると、榛名さんが私の顔を覗き込んで来た。
「あの、結木さん」
「……っ、はっ、はいっ……!」
顔が近い事と突然の事に驚いた私は、思わず一歩飛び退いてしまって……。
「あっ、すみません……」
彼も目を小さく見開いた後、慌てたように頭を下げた。
職業柄、この歳でも患者さんに声を掛けられる事は少なくはないし、中には手慣れた口説き文句を並べる男性もいるけれど……。
「だから、今日はお会い出来て良かったです」
それらには大して反応しない心が、榛名さんの声で紡がれる言葉にはやけにざわめく。
これを〝ときめき〟と呼ぶのは、正しいのだろうか。
もう何年も恋をしていない私には、そんな事すらわからない。
だって、ときめき方なんて忘れてしまっているから…。
その答えがわからないまま、気が付けばマンションが目の前に見えていた。
利便性を考えて選んだはずなのに、駅から近い事が今は残念に思える。
(もうちょっとだけ話したい……)
胸の奥で燻る願望はもちろん声に出せないし、そもそもそんな事を言う勇気もない。
悶々としながら俯きがちになると、榛名さんが私の顔を覗き込んで来た。
「あの、結木さん」
「……っ、はっ、はいっ……!」
顔が近い事と突然の事に驚いた私は、思わず一歩飛び退いてしまって……。
「あっ、すみません……」
彼も目を小さく見開いた後、慌てたように頭を下げた。