ラストバージン
病棟に戻った私を待っていたのは、師長の不満いっぱいの言葉だった。


「だから、言ったじゃない」

「申し訳ありません。すぐに謝罪して来ます」

「私も謝ったけど、かなりお怒りだから。あなたの言葉なんて聞いて貰えないと思うわよ」

「それでも、謝罪して来ます」


眉を寄せている師長に頭を下げ、ナースステーションに入って来た矢田さんを呼び止めて仮眠室に促した。


「何ですか?」

「患者さんに謝りに行きましょう」

「私、さっきも謝りましたけど……」

「それは聞いた。でも、もう一度きちんと謝りましょう?」

「……わかりました。でも、ほんのちょっとお茶が掛かっただけなんですよ?」


酒井さんの話では、患者さんに掛かってしまったお茶はほんの少量でパジャマのズボンが濡れただけ、との事だった。
だからなのか、矢田さんは謝罪をする必要性を感じていないようにも見えた。


「例えほんの少しの事でも、患者さんにとって不快な事だったのならきちんと謝罪をするべきなの。驚かれたのもあるだろうから、それも含めて謝りましょう」


彼女に不満げな顔を出さないように告げ、病室に向かった。

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