ラストバージン
「榛名さんって、実はちょっと意地悪な人だったんですね」

「そんな風に言われたのは初めてですよ」

「絶対嘘でしょう?」


クスクスと笑う榛名さんが私をからかっているのは明らかで、穏やかな印象だった彼の一面に少しだけ驚く。


「すみません、結木さんがどんな反応をするのか見てみたくなって」


だけど、そんな事を言われたら怒る事なんて出来ないし、そもそもこんな榛名さんに嫌悪感も不快感も抱く事はなく、いつもと違う彼の表情に笑みが零れそうになった程。


もちろん迂闊に笑ったりしないように平静を繕ったけれど、からかわれる事がくすぐったいなんてまるで中高生みたいで、何だか照れ臭いような気持ちになってしまう。


「そういえば、結木さんってご兄弟は?」


そんな私の気持ちなんて知らない榛名さんは、またいつもの口調に戻っていた。


「私は姉が一人です」

「てっきり、結木さんは妹か弟がいるのかと思っていました。結木さん、しっかりされているから」

「よく言われます」


恭子を筆頭に同級生や同僚には大体そう言われたし、酒井さんや山ノ内さんにも同じように言われた事があるのを思い出し、つい眉を寄せて小さく笑った。

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