ラストバージン
榛名さんといると、心が休まる。
その事に気付いたのは、イタリアンレストランを出た後の事だった。


結婚や出産の報告ばかりの友達といると焦り、上と下に挟まれている職場では常に神経を擦り減らし、結婚を急かされてばかりの実家はどこか居心地が悪い。
いつからか、誰かと一緒にいる時には心の底から安らげなくなっていた私は、もうずっと一人の時にしか心を解す事が出来なかった。


「今はサッカー部の顧問なんですけど、うちの部活はわりと緩くて。僕の学生時代はすごく厳しかったので、最初は中々馴染めなかったんですよ」


だけど、榛名さんと一緒にいると、こんな些細な話題でも穏やかな気持ちになれるのだ。


「榛名さんもサッカー部だったんですか?」

「はい。と言っても、あまり強いチームじゃなかったので、厳しいわりには成績はいまいちだったんですけどね。サッカーなんて観ますか?」

「私はルールがよくわからなくて……」

「サッカーは細かいルールが難しいですからね」

「でも、今月から甥っ子がサッカーを始めたらしくて、今度観に行く約束をしているんです」


笑顔を零した私に、相変わらず安全運転の榛名さんが前を向いたまま破顔した。

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