ラストバージン
「あ〜、お腹いっぱい」

「僕も」


笑顔の私達は、車に乗り込んでシートベルトを締めた。


「それより、本当に良かったの? ご馳走して貰って……」

「うん。誘ったのは僕だから」


昼食も夕食もご馳走してくれた榛名さんを見れば、彼はニコニコと笑っていた。


「それはランチだけの話でしょう?」

「違うよ。今日一日の話」


些細な言葉に嬉しくなるのは今日一日で何度もあって、今日の私は喜怒哀楽の〝喜〟と〝楽〟のみで作られているんじゃないかと思う。


「じゃあ、今度は私がご馳走するね」


自然と口にしていた〝今度〟に、本当に今度なんてあるのかと考えてしまったけれど……。

「本当に? じゃあ、何が食べたいか考えておくよ」

その小さな不安は一瞬で掻き消され、やっぱり笑みが溢れた。


「ところで、コーヒー飲みたくない? 僕、食後はコーヒーが飲みたくなるんだけど」

「え? あぁ、飲みたいかも」

「じゃあ、コーヒーを飲んでから帰ろうか」


昼食の時のドリンクもコーヒーを選んでいた榛名さんは、どうやら思っていた以上にカフェイン中毒らしい。
コーヒーと言えば、もちろん私達が向かう場所は一つしかなかった。

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