ラストバージン
触れられたのは、頬と髪。
それと同時に掴まれてしまったのは、胸の奥。


目を小さく見開いたまま硬直してしまった私に、榛名さんがクスリと笑みを零した。


「じゃあ、おやすみ」


その言葉の後に『またね』と聞こえたような気がしたのは間違いなく空耳で、そんな事に気を取られていたせいで返事が出来なくて……。

「おやすみ、なさい……」

やっとの事で呟いた時には、榛名さんはもう歩き出していた。


私の声が届いたのか、ゆっくりと振り返った彼が微笑む。


「夜中はまだ冷えるから、風邪引かないようにね」


無言のまま頷いた私は、再び踵を返した榛名さんが角を曲がるのを見届けた後、震えそうな手で頬に触れた。


そこに帯びている熱は、彼の指先のものか、私自身のものか。


間違いなく後者だとわかっていながらも、何故だか榛名さんの指先の温度が残っているような気がして……。トクントクンと左胸の辺りで鳴る鼓動に、自分の中の何かが変わってしまった事を自覚する。


ときめき方なんて、もう忘れてしまったと思っていた。


だけど……榛名さんの事を考えるだけで簡単に高鳴る胸の奥のそれは、誰が何と言おうと間違いなく〝ときめき〟だと気付いてしまった――。

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