ラストバージン
Count,10 許されない過去
「別れよう、葵」


突如告げられた、別離の言葉。
その意味を理解した時に見開いた瞳の中に映ったのは、いつも優しげに私を見つめていた男性。


「……え？」


予想もしていなかった状況に、思考は全く追い付かなくて。
咄嗟に首を小さく横に振りながらも、これは本当に現実なのだろうかと考えて。


それでも、自分の瞳が捕らえた気まずそうな表情が冗談ではない事を静かに語り、すぐに現実である事を突き付けて来た。


「えっ……ちょっと待って……。急にどうしたんですか？」


異変は、何もなかったはず。
だって……つい数日前まで、私の部屋のベッドで抱き合っていたのだから。


「頼む、何も訊かないでくれ……。とにかく別れて欲しい」


それなのに、向けられた懇願の表情と声音は、その時に交わした約束は夢だったんじゃないかと思う程に鋭利で、堪え切れずに涙が溢れ出してしまう。


「本当にごめん……。本当に……」


頭を下げられた直後、私達を引き裂くようにPHSが鳴り出した。


「日高(ひだか)先生っ……！」


ポケットからそれを取り出した日高先生は、私の制止に振り返る事なく立ち去ってしまった――。

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