ラストバージン
* * *
感じた眩しさに眉をひそめて顔を背け、ゆっくりと瞼を開ける。
不快な光はきちんと閉まり切っていないカーテンの隙間が招き入れたものだった事に気付き、ため息混じりに瞼の上に手の甲を乗せた。
「あれ……?」
直後に感じた生温い水滴は自分の目尻から零れ落ちていて、それは寝覚めの悪い夢のせいだと苛立つ。
(どうして今更……)
忘れたい、過去。
あの頃の事はどうしたって忘れられないけれど、ふとした時に鮮明に思い出すような事はあっても、夢にまで見たのは久しぶりだった。
原因はきっと、榛名さんとの事だろう。
あれから一週間以上が過ぎたけれど、未だに自分の中で彼への答えが出る事はなくて、心は相変わらず出口のない道を彷徨っている。
考えれば考える程、榛名さんへの想いは募っていくばかりで、彼の気持ちに応えたいと思う。
だけど……その一方で、そんな事が許されるはずはないと、私の中のもう一人の私が囁き続けていた。
他人の幸せを奪ってしまった私が幸せを望むなんて、浅ましいにも程がある。
榛名さんだって、私の過去を知ってしまったら私の事なんて嫌になるに違いないのだから……。