ラストバージン
「結木さん、顔色悪いわよ?」

「え?」

「体調悪いの?」

「いえ、平気です。すみません」


頭を小さく下げた私に、師長は訝しげな表情のまま「それならいいんだけど」と言い、休憩に入った。


「結木主任、本当に大丈夫ですか? 確かに、顔色があまり良くないですよ」


傍で話を聞いていた酒井さんにまで心配をされてしまい、眉を下げる彼女にすぐに笑みを返した。


「平気。きっと、寝不足だからだと思う。看護師失格ね」

「主任が失格なら、私なんてそれ以前の問題になっちゃいますよ」


自嘲混じりの微苦笑を零すと、酒井さんがフワリと微笑んだ。
笑窪が目立った可愛らしい顔に、ほんの少しだけ癒される。


「そういえば、この間退院した圧迫骨折の患者さんがさっき外来に来られていたんですけど、矢田さんの事をすごく褒めてらしたんですよ」

「そうなの?」

「はい。一生懸命だし笑顔がいい、って」

「矢田さん、成長してるもんね」

「本当、最初の頃とは別人ですよね。入って来た頃なんて、ニコリともしなかったのに」


たまたまスタッフが出払っていたナースステーションで、私達は春頃の事を思い出しながら笑みを浮かべた。

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