ラストバージン
「じゃあ、もういいかな」


程なくして、ふと榛名さんがそんな事を言った。
何が〝いい〟のかわからなくて小首を傾げると、彼の瞳が悪戯に緩められる。


「キス、してもいい?」

「え?」

「ずっとしたかったんだ」


恥ずかしげもなくそんな風に言われて、こっちの方が恥ずかしくなってしまった。


「……まさかダメなんて言わないよね?」


まるで駄々をこねる子どものように拗ねた顔が、俯いた私を逃がさないと言わんばかりに覗き込む。


「言わない、けど……」

「じゃあ、いいよね?」


ニッコリと笑う榛名さんから、何とか視線だけは逃れる。


「言えないよ……」


その後で小さく呟くと、彼が眉を寄せながら楽しげに笑った。


「それ、いいって言っているようなものだよ」


クスクスと笑われて、私だけがこんなに緊張しているのかと悔しくなる。


「からかわないで……」


そんな気持ちで榛名さんを睨めば、彼が困ったように微笑んだ。


「からかってないよ。ただ、今まで以上に結木さんが可愛く見えるから、ちょっと戸惑ってるんだ」

「えっ……!?」


榛名さんの言葉に目を丸くした私の唇に、そっと唇が押し当てられた。

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