ラストバージン
触れるだけのキスがこんなにも温かいものだなんて、今までずっと気付かなかった。


嬉しくて、だけど恥ずかしくて。
堪らない気持ちになった私は、きっとキスも知らない少女のように顔を真っ赤にしていて。


それがまた恥ずかしくて、この場から逃げ出したくなってしまう。


そんなさなか、狼狽える私を楽しげに見つめていた榛名さんが、不意に腕を伸ばして来て……。次の瞬間には前のめりになっていた体は、気付けば彼の腕の中にすっぽりと収まっていた。


「あっ、あのっ……」

「黙って」


慌てて体勢を戻そうとした体は益々きつく抱き締められ、頭上からは優しい声音が落とされた。
ドキドキを通り越してバクバクと鳴る鼓動は、きっと榛名さんに聞こえてしまっているだろう。


それが恥ずかしくて、瞼をギュッと閉じた直後。

「ずっと、つらかったね」

ずっと消える事のなかった傷を癒すように、労るような声音で囁かれた。


驚いて目を見開き、そして与えられた優しさに再び涙が溢れてしまう。


「泣かせるつもりじゃなかったんだけどな……」


グスッと鼻を啜ってしまった事で気付いたらしい榛名さんは、私の体をゆっくりと離してどこか困ったように笑っていた。

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