ラストバージン
「そこのコンビニを右に曲がって。そしたらすぐに信号があるから、そこを左」

「うん」


実家が近付くに連れて、憂鬱が大きくなっていく。
深呼吸をしては自分自身を落ち着かせようと試みるけれど、落ち着くどころか緊張がピークに達して胃がキリキリと痛み出した。


「どうして僕より葵の方が緊張してるんだよ」

「放っといてよ……」


自分の両親に会ってくれると言う恋人に対して、なんて可愛いげのない態度だろう。


「はいはい」


相変わらず涼しい表情の榛名さんは、クスクスと笑った。


一体、どうすればそんな風にいられるのだろう。
そんな風に思う私の視線に気付いたらしく、彼が苦笑を零した。


「言っておくけど、これでも緊張してるし不安なんだよ」

「え?」


(どこが……?)


思わず声に出してしまいそうだった疑問を飲み込みながらも、榛名さんの横顔をじっと見つめてみる。
すると、彼はため息混じりに微笑んだ。


「恋人の両親に会うんだ、それが当たり前だろ? もしかしたら交際を反対されるんじゃないかって、内心ヒヤヒヤしていたりもするくらいだよ」


ちょうど赤信号で捕まると、榛名さんがどこか不安げな表情を見せた。

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